見えない糸
パソコンを閉じリビングに戻ると、ソファーに座ってテレビを見てる紗織がいた。

「紗織、チョットいいか?」

直次が紗織の向かい側のソファーに腰掛けて言った。

「いいけど…?何オジサン?」

テレビを消して紗織は直次の方に向き直した。

「俺は紗織に、過去の記憶を思い出して欲しいと考えているんだ」

突然の言葉に紗織はキョトンとしていた。

「オジサン、いきなり何を言うのかと思ったら…それなの?」

「ずっと考えてた事なんだ。俺だって医者だ、紗織の過去を思い出せないままって言うのは…」

直次が全てを話す前に、急に紗織が立ち上がり、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。

「オジサン、もういいよ。アタシはオジサンと生活する事で幸せだから…はい、飲むでしょ?」

と直次に手渡しながら言った。

「そりゃ幸せと言われて俺も嬉しいけど、紗織のこれからの人生で、やっぱり必要な部分だと考えてるんだ」

受け取った缶ビールを開け、ゴクゴクッと飲んだ。

「んー…イキナリすぎて分かんないよ…オジサン」

紗織は自分の髪を触りながら、少し口を尖らせて言った。

< 6 / 110 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop