こいのはなし2。

バス



二十歳で就職して、早一年。


毎日使う、通勤のバス。


半年ほど前から、始発から2つ目のバス停から乗ってくる、スーツ姿の人がいる。



だいたい、いつも私が座る席の近くに、その人は居た。


神経質そうで、真面目な雰囲気。



私より、少し歳が上な感じ。


進行方向から右手に鞄を持って、左手はつり革。いつもそうやって乗っていた。

いつも通りの風景だけれど、今日は少し違っていた。






「やだ、痴漢!!この人痴漢です!!」



カン高い声。


スーツの彼の後ろにたっていた女子高生だ。


太ももが半分も見えそうな短いスカートを履いた女子高生が、


スーツの彼を指差して叫んでいた。


一斉に集まる、視線。


「えっ!?なに、僕!?」



スーツの彼は、当然驚いていた。


騒然とする車内。



「僕!?じゃねーよ、いまアタシのお尻触ったでしょ!?」


「変な言いがかりは止してくれよ、僕は触ったりしてない」


「はぁ!?何言ってんの!?触った癖に!!」


ヒートアップした女子高生は、そのままバスの運転手さんに、


バスを止めて通報しろと喚きたてた。


朝のラッシュ時間帯。


バスは満員。


揺れたら接触する可能性だってあるだろうけれど。


乗客達は迷惑そうな顔をしたり、スーツの彼を白い目で見たりしていた。



「言い掛かりも大概にしないか。僕が君に触ったなんてどうして言えるんだ」


「アンタがアタシのお尻掴んだんでしょ!?言い掛かりとかふざけんなよ、痴漢のくせに」


女子高生がますます怒鳴る。


「ちょっと、マジ次の停留所で降りてよ警察呼ぶから!!」


叫び出した女子高生が、携帯を取り出す。


「おい、僕じゃないと言ってるだろ!!」


スーツの彼が、女子高生の手から携帯を取り上げようとしたのを見て、



「あのっ!!」


私は、とっさに声を上げていた。


今度は、私に視線が集まった。



< 17 / 24 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop