求愛
タカは繋いでいるのとは反対の手で、あたしの頬に手を添えた。


そしてあたしの唇を割るように親指を押し込めると、口内には錆びた鉄の味が広がった。


苦さと違和感に顔をしかめるが、でも気にせず彼は、あたしの口を塞ぐようにキスをする。


共有する味に、頭がくらくらとする。


だから意識的に酸素を求めようとするが、それさえ許さないように舌が割り込んで来た。



「…タ、カ…」


その手は今まで、一体何人の血の色に染まってきたのだろう。


そう思うと悲しくなるけれど。


だからこのままタカの手によって窒息死してしまえる術を探していたのに、



「俺もう、お前までいなくなるのが怖ぇんだよ。」


鼻先が触れるほどの距離。


その漆黒の瞳には、あたしだけが映っている。


だから朦朧とした意識の中で、倒れ込むようにタカの肩口に頭を預けた。


未だ少し腕が痛むのは、いつの古傷だったろう。



「帰ろうよ、シロが待ってる。」


明日には死んでいるかもしれないタカに、じゃあずっと傍にいてよ、なんてことは言えなかった。


彼はあたしの言葉に、頼りない笑みを浮かべて見せる。


もしかしたらこの人はもう、あたしを乱暴には抱かないのかもしれないし、きっと願ったって殺してなんてくれないだろう。


淡黄の月は、次第に雲間に隠されていく。

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