求愛
「もうすぐ最後の夏休みだと思うと、学生なんて嫌なのに、感慨深くなっちゃうよ。」


お前はオヤジか、とまたタカは笑う。


無駄に過ごしているだけの高校生活だけど、得たものは少なくないのかもしれないと、最近思うようになってきた。



「お前、最後の夏休みだからって、あんまハメ外すなよ?」


「心配なんだぁ?」


「うっせぇ、馬鹿。」


口を尖らせて煙草を咥えるタカを見て、



「そんな怒んなくても、あたしはタカのところ以外には帰らないでしょ?」


もう、あの家に帰る気はないし、春樹とも離れるべきなのだと思う。


そうじゃなきゃ、あたし達はまたいがみ合ってしまうから。


タカは一瞬驚いた顔をして、でもすぐに伏し目がちに笑った。


ちょっと照れてるみたいで可愛いと思う。



「そんなに俺が好きなんだぁ?」


「バーカ。」


なんて言いながら、ビールを飲んだり、食事に端を落としたりで、時間は過ぎていった。


それから小一時間が過ぎた頃、



「あっ!」


と、いう声が背中から聞こえ、驚いて振り向いた。


その瞬間、あたしはぎょっとしてしまう。



「何でこんな場所で、道明くんと結香に遭遇するかねぇ。」

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