求愛
帰宅してすぐ、今日はピザをデリバリーしようという話になった。


するとそれを見計らったように、道明さんまでやってきた。


結局いつもみたいにみんなで騒ぎ、夜も更けた頃、飲みすぎたタカは知らない間にソファーで眠っていた。


もちろんその膝元ではシロが丸まっているわけだが。



「あーあ、こんなとこで寝やがって。」


道明さんはタカを小突きながら笑う。


まぁ、どうせ当分は起きないだろうからと諦め、あたし達はふたりで乾杯をし直した。



「道明さんさぁ、仕事忙しいとか言ってなかったっけ?」


「いや、俺は面倒事から上手く逃げてるだけだから。」


まったく、良い御身分だこと。


組のことなんてあたしは全然知らないけれど、でもいつものん気な彼を見ていると、ヤクザって案外暇なのかな、なんて思ってしまう。


だから少し気になったのかもしれない。



「ねぇ、どうしてヤクザなんかになったの?」


「ヤクザなんか、って。」


道明さんは少し笑ってから、



「気付いたらヤクザだった、ってだけだよ。
それに、極道ってもんが俺には一番馴染んでるんだ。」


きっと何があったって、彼は堅気に戻る気はないのだろう。


その裏の顔なんて知らないけれど、でもこんなにも情に厚い人だからこそ、少しばかり悲しくなる。



「まぁ、心配しなくても、タカはまだ引き返せるさ。」


いつも道明さんは、そんな風に言いながら、あたし達を見守っててくれてるよね。


それはアイさんへの償いなのだろうか。

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