求愛
我が家に両親はいない。


いや、日本にはいない、と言った方が正確なのかもしれないけれど。


お父さんは製薬会社で働いていて、ニューヨークの研究室に呼ばれて以来、こっちには一度も帰ってきたことはない。


そしてお母さんは、結婚前、塾の英語講師をしていたため、元々渡航願望が強く、お父さんの転勤に喜び勇んで着いて行った。


もちろん、あたしと春樹を残したまま。


そうやって5年前から始まった、姉弟ふたりの暮らし。


いや、実質的にはふたり共、まともに家になんか帰ってないのだけれど。


毎月同じ日に振り込まれる生活費を、家賃や光熱費だけ残して折半し、あとは互いに自由に使っている。


それ以上の干渉なんかしないし、春樹がどこでどうしてようと、あたしには何の関係もない。


だからアイツがエンペラーの一員として犯罪に手を染めていようとも、捕まって迷惑をかけないでほしいと思う程度だ。


いや、捕まってくれる方がずっと世の中のためになるのかもしれないけれど。



「死ねば良いのに、あんなヤツ。」


呟いた言葉が消える。


あたし達は互いを嫌い合っていた。


と、いうか、ある意味では憎しみ合っているのかもしれないけれど。


そして両親もまた、そんなあたし達を疎ましく思っていることだろう。


まぁ、別にこの生活に不自由なんかしてないし、今のまま、日本に帰ってこないでいてくれる方が楽で良いけれど。


とにかくあたし達は、5年前からそうやって暮らしている。

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