雨が降ったら

5


 さらに月日は巡り―――


 穏やかな春のぬくもりがアスファルトを乾かし、日陰に積もった頑固な雪をも溶かしていく。

 見渡す山々の頂(いただき)はいまだ広く雪に覆われているものの、
 このあたりでは淡い緑がそこここから顔を出し、木々にはつぼみが、あるいは新芽をのぞかせて、
 春色が町を彩(いろど)っていく様はなんとも目に優しい。

 今日は中学校の卒業式だ。

 わたしも、仲のいい友達も、第一志望の高校に入ることがめでたく決まり、
 一足早い桜が皆の顔に咲き誇っている。


「先輩、ネームもらえませんか」


 部活の後輩だ。

 女子で、なおかつセーラー服のわたしたちには、あげられるものがネームか、
 卒業式で全員胸につけるよう言われた花くらいなものだ。

 いいよ、と胸のネームを外して渡すと、後輩の女の子は嬉しそうに両手でそれを受け取って、
 頭を下げて去っていった。


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