初涼

 スポーツ番組を見ながら一人で遅い夕食をとっていたお父さんは、わたしの差し出したプリントに目を通して、テレビを消した。

「座れ」

少し尖った声でいうお父さんの前に正座した。

「どうするんだ?大学行くのか?」

言わなくちゃ、と思うのに、まったく声が出なかった。
俯いて、深呼吸しても、唇を舐めても、だめだった。

「言わんと分らんぞ」

そんなこと、わかってる。
わかってるけど、唇は小さく震えるだけで、のどが絞られるみたいに痛くなって、それでも言葉が出てこない。

「大学行って、お前は何するんだ?」

どうして、なんだろう。
どうして、そんな訊き方するんだろう。
大学に行って何かをするんじゃなくて、何かをするために大学に行かないといけなくて…

「大学に行って、そのあとはどうするか考えてるのか?」
「考えてるよ」

ようやく口からこぼれた言葉に、少しだけほっとする。
でもその先が続かない。
お父さんは早くしろって目で見てるのに。

だけど、言えない。
夢が変わってしまった。
そんなこと、反対押し切ってまで西高を選んだのに、西高を選んだ時と、今の夢が変わってしまったことなんで、簡単に言えるわけない。
だからずっと、こんなに悩んでるのに。

「またいつもみたいに黙ってたら済むと思ってるんでしょ?」

お風呂から上がってきたお母さんは、いつもみたいに嫌味たっぷりの小言を言いながらお父さんの隣に座った。
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