オリオンの砂時計
夜のそら。
★ありがとう。★


先端が傷んだミュールをカツカツ鳴らしながら。

足早に歩く。

指の感覚がなく、呼気が煙草の煙みたい。

家の近く、坂道を上る足はがくがくしてる。
身体の芯まで凍えてるのは、いつも気まぐれに現れるニャーに会わなかったからじゃない。

アパートの階段を上がり切ったところで、駅からの帰り道で初めて爪先以外のものを見た。

群青の夜空に浮かぶ巨大すぎる砂時計。

7つの星からなる星座。

オリオン。

星座の中の虚空を見つめて、心の中、つぶやく。

ほんとにほんとに、ごめんね。

それから、ありがとう。


★ANKLET。★


「白いシーツの上で揺れると、綺麗なのよ」

「ココアに生クリームを浮かべると、美味しいのよ」と言うような口調で、彼女は言った。



山田詠美『放課後の音符』の一節に、確かこんな文章があった。
平均的な感じの高校生の女の子が、ちょっと早熟な同級生の女の子たちとの関わりによって、少しずつ変わっていく。

当時の私も主人公に感情移入しまくって、大人びた彼女たちに憧れを抱いた。
焦燥感に駆られた。



私がカクテルを飲むようになったばかりの頃、ジントニックをひたすら注文したのも、真っ赤な口紅を持ち歩いてい
< 1 / 87 >

この作品をシェア

pagetop