Natural
家に戻ると喪服はもうベタベタのボロボロで着れるような状態じゃなかったので誰かに借りようと思い、前の会社で同じだった美咲に連絡をした。

美咲は事件のことを知らず、すぐに喪服を持って来てくれた。

美咲『今日が日曜日でよかった・・。大丈夫?わたしも一緒に着いていくよ。』

そう言ってくれたが

美紗子『大丈夫。1人で行ける。心配しないで。』

そう精一杯の笑顔で言った。

美咲はその笑顔が心配だったが、また夜に来るねと言って帰って行った。

美紗子は喪服を着て毅の葬儀会場に向かった。

時間の少し前に着いて会場を見るとたくさんのひとがいた。

少し笑っている人がいたので殴りたくなった。

美紗子は香典を渡して名前を書いて1人でソッと座った。

遺影の写真の毅の笑顔が愛しくてたまらなかった。

そしてその前には小さな箱に入った毅の骨。

どうして昨日の通夜に行かなかったのだろうとすごく後悔をした。

最後の姿だったのに。

”お願い、誰か嘘だと言って・・もう一度会いたい・・あの笑顔を見たい・・”

そう思うがもう届かぬ願いだった。

葬儀が始まり、美紗子は目を閉じていた。

思い出す毅の声、大きな手、笑ったときに細くなる目。

触れた唇の温かさ、美紗子を包んでくれた大きな体。

”どれか1つだけでも置いていってほしかった・・”

また涙が溢れた。
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