光の子
「広香!」
追いかけてきた声に広香は振り返った。
「木綿子」
ポニーテールが揺れている。
「広香、帰る?私も一緒に帰るよ」
広香は首を横に振った。
「木綿子は、最後まで」
木綿子が歩み寄って広香をやわらかく抱きとめた。
「大丈夫だよ、広香。
矢楚と広香はお似合いだからね」
頭のすぐそばで、木綿子の静かな声が聞こえる。
遠くの歓声より、耳を傾けるべきは、親友のこの声なのかもしれないのに。
広香はここから逃げたくてたまらなかった。
木綿子は、広香を離して微笑んだ。
「広香、気を付けて帰ってね」
一人にしてくれる友の優しさに感謝しながら、広香は再び歩きだした。
心配をかけたくなかったのに、広香は、小走りになる足取りをどうすることもできなかった。