光の子
「月島さん。私、帰るね」
「え、試合は?」
柴本亜希は、立ち上がった。
「騒動になると、面倒だから」
柴本亜希のシフォンのブラウスが風をはらむ。
白いスクリーンのように、そこに矢楚の父親の残像が浮かんだように見えた。
年令にそぐわないものを自ら背負った柴本亜希が、広香は痛々しかった。
ただ彼女に圧倒されていた今までとは違う何かが、広香の中に生まれていた。
柴本亜希の眼差しに友情に似たものがゆらめいたように。
「あ、誕生日、おめでとう」
柴本亜希は広香を見おろし、花ひらくように笑った。
「ありがとう」
風に前髪が上がって、秀でた額と意志の強そうな眉が見えた。
おもしろかった、柴本亜希は満足そうに言うと、
一度も振り返らずに歩いていった。