光の子

月の努力




矢楚が、私を選んだ。


くちづけを受けた手の甲を見つめながら、
広香は驚いていた。



たとえば、そう、
毎日廊下に立って矢楚を見ている、柴本亜希――。



矢楚がああいう、華やかな女の子と恋をし大切にしていくさまを、
友達として見守ること。


自分と矢楚にあるのは、そんな未来だと思っていた。


普通の女の子のような恋愛が、私にできるのかな。


自信のない自分に、矢楚の眼差しが語っていた。



ゆっくり、行くから。



迷う広香の目に映ったのは、金星のきらめき。


太陽が地平に去ったあと、新月の宵空に、勇気づけるように瞬く光り。


広香にとっての矢楚みたいに。          

見ているだけでいいと思っていた。

それがいま、望んでもいなかった自分の手に降りてきた。


背伸びかもしれない、
あまりの輝きに、目が眩むかもしれない。

それでも。


広香はその星を放さないと決めた。





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