光の子



行ってきますさえ口にできない家庭から、重苦しく塞がった胸を抱えて広香は登校した。


広香が教室の扉をがたがたと開けると、すでに中にいた生徒たちが視線を寄越した。けれど誰も、『おはよう』とあいさつをしてくる子はいない。

広香のクラスは、活気のない、どこかひっそりとした雰囲気なのだ。

広香は四月にこの小学校の六年二組に転校し、二ヵ月近くが過ぎたばかりだ。

転入した先がそんなクラスだったことは広香を落胆させたが、それでも救いはしっかりあった。

木綿子(ゆうこ)と出会えたこと。

クラスメイトの木綿子は、素朴で温かく、健康的で活動的なタイプだ。

家は商店を営み、四人弟妹の長女、学校では女子ミニバスケのキャプテンをしている。

あと数分もすれば、木綿子は朝練を終えて、朗らかですっきりとした朝のあいさつを広香にしてくれるだろう。



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