光の子


喫茶店に入るのは、初めてだった。

店の外壁に蔦(つた)がはい、店前に「自家焙煎」の看板が立てられている。

八時を過ぎたばかりだが、五坪ほどの店内に、三名の男性客がいた。

薄暗い店内は、時間の感覚を麻痺させる。淡いオレンジ色の照明が、レトロな店内を夕暮れ時のように見せた。

健人は、店の中でも一番陽の差す窓辺へ広香を座らせた。

「夜勤明けの足で来たからさ〜、がっつり食べたい気分だよ。広香ちゃんは何にする?」

「私、あんまりお腹すいてない」




< 97 / 524 >

この作品をシェア

pagetop