Door

始まりのドア

『あの、落ちましたよ?』

そう言って定期ケースを差し出した男の人がいた。
怜治さんと違ってまったく飾り気のないジーンズにあったかそうなセーター1枚。
でも似合っていて、なんだか落ち着いた雰囲気を出している。
息を必死に吸っている彼を見ると、走ってきたのだろう。

「あ、ありがとうございます!!よくドジで定期ケース落としちゃうんです。
これで、3回目。」

そうケースを受け取って、また家の方向に歩き出す。


自分のマンションまで来てようやく気付いて振り返った。


「あれ、家、ここなんですか?」

なんとさっきの彼も同じマンションに入ろうとしているから
驚いてきいてみた。


『あれ、家、ここなんですか?』

お互い目が合って笑いあう。


『違う方向だと思っていたのに、道が一緒だから驚いたぁ』

と笑うもんだから、つられて笑いあった。


「どこの部屋なんですか?」

興味本位で笑いながら聞いてみた。


「ああ、502です。君は?」

『え、私503です。まさかのお隣さんですか!!』


一緒にマンションの部屋まで言って
ありがとうって言いながら部屋に帰ると
さっき「さよなら」した胸の痛みが、少し和らいでいる気がした。
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