《完》オフィスに鍵をかけて 〜キケンな部下と秘密の恋〜
1―イキナリ部下!?
     ☆☆☆☆☆



この世の中に、オフィス
ライフになんの悩みも
持ってないOLなんて、
そういないと思う。




けどあたしは、もしそれが
仕事の悩みだったら、
喜んで今すぐ変わってあげたい。




そう――

5年もOLやってると、
今さらもう仕事のことで
悩んだりなんかしなくて。




代わりにやって来るのは、
もっと俗っぽくてウザっ
たい、ぬる~い悩み
だったりするワケだ……。





_「松嶋、ちょっといいか?」




朝礼の後、部長に呼ばれて
あたしはキョトンとして
振り返った。




なんでって、部長に声
かけられることなんて
普段めったにないから。






――あたし、松嶋 莉央
(まつしま・りお)。




ファッションブランドを
展開する服飾メーカー、
『株式会社モード』に
勤務するOL。




_歳は25歳。


短大出てすぐに就職した
から、今でもう勤続5年目。




あたしの所属は、若い
女のコ向けの姫カワな
服を扱うレーベル、
《ストロベリーガールズ》。




5年もいれば古株だけど、
残念ながらリーダーでも
チーフでもない、ただの
商品企画兼デザイナーの一人だ。




だから普段はせいぜい
チーフや課長と話す程度
で、部長に声をかけられる
覚えなんてなんにもないん
だけどなぁ。



_「……なんでしょうか?」




ちょっとビクビクしながら
尋ねると、部長は短く、




「話がある。一緒に来てくれ」




そう言って勝手に歩き出し
たんで、仕方なくあたしも
ついて行った。




部長が入ったのは来客との
打ち合わせに使うことが
多い応接室。




部長は当然のように上座の
席にドカッと座って煙草を
吸い出す。




_ワケわかんないままお茶を
いれたら、ようやく部長は
話し出してくれた。




「今日から新人がひとり入る。

今別室で宇佐美が応対
してるから、そのうち
連れて来るはずだ」




「え、新人……ですか!?」




先週正月休みが明けた
ばかりの、1月のこんな
ハンパな時期に?




しかもそんな話、さっきの
朝礼でも全然言って
なかったのに。




あまりに急な話にあたしは
ポカンとしちゃう。




_だけど、すぐにあたしの
頭は別のことが気になり出した。




(“宇佐美が連れて”って……。

今からここに来るってこと?

ヤだな……)




宇佐美っていうのは、
うちの課長。




フルネームは宇佐美 潤
(うさみ・じゅん)。



今年30歳になる男の上司
なんだけど――あたしには
ちょっと、極力顔をあわせ
たくない理由があるんだ。



_まぁ実際は一番絡むことが
多い上司だから、顔あわさ
ないなんて不可能なんだけどね。




でもだからこそ、こーゆー
突発でさらに機会が増え
ちゃうと、ちょっと滅入る……。





だけどそんなあたしの胸の
うちが部長に通じるわけもなく。




平然と煙草を吸い続ける
部長とさらに5分ほど
そこにいると、トントンと
ドアがノックされた。



_「お、来たな。

入りたまえー」




部長の返事を聞いて入って
来たのは、今日もピシッと
スーツを着こなした課長と
――もう一人、初めて見る男。




(え……新人って、男??)




あたしは内心で叫んでた。




うちのレーベルに来るから
には、てっきり女のコだと
思ってたから。




現に今も、管理職以外は
女のコばっかりの部署
なのに……。



_(この人は、ちょっと
テイスト違いすぎない……!?)




課長と目をあわせ辛いのも
あって、あたしはもう
一人の新人と思われる
方をマジマジ観察した。




黒い細身のスーツに、
薄いストライプが入ったシャツ。
スカイブルーのネクタイ。



髪はストレートの茶髪で
前髪は左に流して、
両サイドは外にツンッて
はねる感じで、キレイに
セットしてる。



_やや丸い二重の目に高い
鼻、形のいい薄い唇と
細いアゴのライン。



ハッキリ言って、かなり
カッコイイ……かも。




新人ってだけあってだいぶ
若そうだけど、でもなんか
全然サラリーマンっぽく
ないコだな。



そう……企画の人間って
いうよりは、ショップの
販売員やってる方が
似合いそうな感じ。



_こんなコが新人って、一体
どーゆーこと? 

なんて思ってるあたしを
よそに、課長が下座に
そのコを座らせて、自分は
部長の隣に座った。




ソファーは4人掛け。



立ちっぱだったあたしの
席は必然的に新人クンの
横になる。





全員が座ると、課長が
さっそく話を始めた。




「お待たせしてすいません部長。

改めて――今日から配属に
なる、柳瀬 瑞樹(やなせ・
みずき)君です」



_その紹介を受けて、新人
クンも同じように名前を
名乗り、丁寧に頭を下げる。



低めでややハスキーな声だった。





挨拶された部長はウム、と
頷いて『部長の山下だ』
って名乗ると、すぐに
あたしの方を向いた。




自己紹介しろってこと?




本当になんであたしが
この場にいるのかも
わかんないけど、とりあえず、



「えーと……松嶋です……」



_そう名乗ると、部長はさも
当たり前のことを説明する
ような口調で、




「彼女が、
キミの専属教育係になる。

約1ヶ月の研修を予定
してるから、あせらず
頑張ってくれ」




「――――えっ!?」




声をあげたのはあたしの方だ。




ちょっと待ってよ……


教育係!? あたしがっ!!?




「ぶ、部長!

そんな話、あたし一言も……!」



_思わず口を挟んだけど
部長も予想はしてたのか、




「ああ。急で悪いが、昨日
宇佐美と相談してそういう
ことに決まってな。

まあ、普段の業務を
教えればいいだけだ。

松嶋なら問題ないだろう
から、頼む」




イヤ、頼むって言われても……。




フツー新人教育とかって、
管理職の人がするもんじゃ
ないの?



_「どうしてあたしなんですか?

新人指導なら、宇佐美課長
とか沙織(さおり)さんとか……」




沙織さんっていうのは、
課長の次に偉いチーフの名前。




30過ぎの頼れるお姉さん
タイプで、役職からしても
キャラからしても、絶対
あたしより適任なんだけど。




驚きを隠せないあたしに、
答えたのは課長だった。



_「たしかに沙織君の方が
慣れてはいるだろうけどな。

いつまでも彼女にばかり
頼ってては、うちの部も
進歩がないだろ?」




「え? 進歩――ですか?」




「あぁ。

男性の柳瀬君を配属させた
のも、同じ理由なんだが。


部内でも新しいことを
積極的に取り入れて、商品
開発にも新たな風を
入れたいんだ」




「新たな風――…」



_なんか小難しいこと
言ってるけど……

つまりは新しいことに
挑戦して、気分転換
しようってこと?




(言ってることは
わからないでもないけど。

そんなことは、もっと
早く言ってよ……!)




さすがに部長にそうは
言えないけど、内心では
舌を打ちたい気分。




だってぶっちゃけ、
あたしにとっちゃいい迷惑だよ。




新人の教育係なんてやった
こともないのに、おまけに
男の新人だなんて……。



_困り果ててチラッと隣を
見ると、新人クンも
こっちを見てて、バッチリ
目があってしまった。




彼は即座にフワリと
柔らかい笑みを浮かべて、




「よろしくお願いします、
松嶋センパイ」




くったくのない声で、そう
声をかけてくる。




そのあまりに整った顔と
まぶしいスマイルに、
思わずたじろぐあたし……。



_「じゃあ、そういうことだ。

急だったし、今日はとり
あえず組織形態や業務を
ざっくり教えてくれればいい」




しまった。

新人クンに見とれ……じゃ
ない、注目してる間に、
サッサと部長に話を
まとめられた!




あわてて部長を見たけど、
もう腰を浮かして立ち
上がろうとしてる。




部長だけじゃなく他の
二人も同様で、すっかり
話は終わっちゃった感。



_(ちょっと待ってよ。

マジで………!?)




頬を引きつらせるあたしの
目の前で、部長は応接室を
出て行った。




と、その後を追いながらも
課長がさりげなくあたしの
傍で立ち止まって、




「驚かせて悪かったな。

彼の入社自体が急ピッチで
決まったんでさ。


でもまぁお前なら本当に
大丈夫だと思うから、
頑張ってくれ」



_小声で囁くようにそう
言って、あたしの肩を
ポンと叩く。




「……………」




あたしは返す言葉が
出なくて黙ってた。




それを見て、課長は困った
ように曖昧に笑い――
そして、今度はハッキリと
“上司”の声になって、




「研修用にB会議室を1日
借りといた。

まぁ、今日はオフィス
見学でも何でも、自由に
やってくれていいけどな。

で、今日の退社までに
研修スケジュールを立てて
オレに提出してくれ」



_「………わかりました」




あたしが低い声で返事
したのを聞き届けて、
課長も足早に部屋を出ていく。




残ったのは暗い顔した
あたしと、それとは反対に
緊張した様子もなく、ニコ
ニコほほ笑んでる新人クン。




(はぁっ……ここで沈んで
ても仕方ないかぁ……)




とりあえず、あたしは
マジでこの新人をお世話
することになっちゃった
みたいだから。



_「それじゃあ、あたし達も
行こうか。

えーと、柳瀬クン」




そう呼びかけると、新人
――柳瀬クンはさわやかに
顔を輝かせて、



「ハイ」



って返事する。




(う………

だから眩しいんだってば、
その笑顔っ)




心の中で叫びながら、
あたしも頼りない足取りで
歩き出した――…。





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