キスしかいらない

side天久

…。…。

ジャケットの内ポケットで携帯が震えた。


『あまくさん。
忙しいの?(`◇´)』

ハナちゃんから。
入学式の日にも『挨拶かっこよかったよ☆』なんてメールが来ていたっけ。

ちょうど仕事がひと段落したところだ。
迷わず返信。

『いちおう仕事中だから、暇ではないな(笑)』


すぐに返事がある。さすがいまどきの子は、打つのが早いな…っておっさんくさいな、俺。


『すぐメール返ってきたじゃん!お仕事してないねっ( ´艸`)ねー。今夜久しぶりにご飯食べに来ませんか?お兄ちゃんも顔見たがってるよ〜』
『そういえば最近、陽介に会ってないね。あいつ元気?』

陽介こそ、俺の友人でありハナちゃんの兄貴。


『自分で確かめに来てください♪』


思わず苦笑する


『いいよ。じゃあ、お母さんにちゃんと俺がお邪魔するって連絡して』


ハナちゃんのおねだりを、断れたことなんて無いんだ。


携帯を閉じて、理事長室の窓から、高校の校舎に目をやる。


あの校舎のどこかに、高校の制服を着て、俺の好きな女の子はいる。


「言えるわけないよなぁ…」


好きだなんて。

大人になるのを待つしかないんだ。
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