【歪童話】眠りの森の茨姫
「うむ。迷った」

蒼は茨の森の中でうろうろしていました。
馬は森に入れなかったので森の前の木につないで来ていました。

「塔があるとの話しだったが見えないしな。目印もないから帰れないし」

茨は切られても10分ほどすると元通りに戻ってしまい、元来た道を戻ることも困難でした。

「こう……道しるべのようなものはないのか?」

とりあえず蒼はそこで歩くのをやめ、辺りをきょろきょろと見ました。
しかしあるのは茨と、茨が絡まった木だけです。

「困った。困ったぞ。これでは理想の姫を連れて帰るどころか迎えにいくこともできん」

「なに虚言を吐いてるのかな。蒼」

「……っむ!?気配を消して背後を取るということは……希かっ」

「喋んないでくれる?蒼。馬鹿が移りそうで怖いんだ」

「なんだその言い草は!幼馴染に対して冷たすぎないか!?」

「あいにく馬鹿な間男と幼馴染になった覚えはないんだ。どいてくれる?姫を助けに行かなくちゃ行けないんだ」

「ふふふ……知っているぞ、希。貴様は普段から柔和な姿勢を崩さないが、俺の前では幾分砕けていることを!」

「馬鹿に猫被るほど馬鹿じゃないから。てかどけよ!」

しかし蒼は両手を広げて、ここは通さないという意志を示しました。

「だが断る!俺だって貴様の一目惚れした姫に会いたいもん。そしてあわよくば嫁に!」

希は蒼を冷めた目で見ていました。
その表情にはありありと、ああ、やっぱり馬鹿だなこいつと出ています。
しゅるり、と何かが伸びる音がしました。

「……!!なんだこれは!?」

茨が蒼の腕に巻きついてきました。

「い、痛っ!助けてくれ、希」

「じゃあ頑張ってね」

希は踵を返して他の道から森の奥に入っていきました。
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