【歪童話】眠りの森の茨姫
二人はぎゃあぎゃあと喧嘩しながら塔の近くまでやってきました。

「なんだよ、ここ……」

そこは、まるで春の野原のように平和な所でした。
花は咲き乱れ、蝶がゆらゆらと飛び、茨の森といっても誰も信じなさそうな場所でした。

「なんでだろう。ここはたくさんの魔法の茨があるって聞いたのに」

「うーん。謎だな」

蒼はきょろきょろ辺りを見渡しました。

「あ、塔に扉発見」

「なんだって!?」

希は我先に、と塔へ走りだします。

「な、フライングだぞ、希!」

蒼も後を追って塔の中へと消えていきました。

塔の中は螺旋階段になっていました。
階段の終わりには簡素な扉が見えます。

「はっ……はぁ、はぁっ」

希は途中まで全速力で駆け上がりましたが、すぐに息が切れて壁に手をつきながら歩いていました。
ちょっと押せばすぐに落ちていってしまいそうです。

「おいおい、大丈夫かよ希」

蒼は希があまり運動が得意でないことを知っていたのでゆっくりマイペースに登ってきていました。

「き、さまに、心配、される謂れはっ……ないっ」

「ふうん。じゃ、俺先行くからー」

横を通り過ぎようとした蒼に希は剣を突き立てました。

「連れて行け」

そしてがしりと蒼の腕を掴みました。

「ふん。本当はこんな馬鹿に借りなど作りたくないが、いや、こちらはたくさん借していたな。しょうがないからここで返させてやろう」

「……」

蒼はうろたえましたが、ため息をついて希の手をそのままにしました。


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