女王様と王子様
「でも意外だったな、山本さんが委員長を引き受けてくれるなんて」

『よく言うわ。半分脅されたようなもんじゃない』


椅子の背にもたれて腕を組む。そしてため息。


「脅した?いつ?」

『…あんたって実は腹黒なの?それとも天然?』


この手のキャラは乙ゲーでもよく見るが、ここまで酷くない。
無自覚なんてタチが悪いにも程がある。


「山本さんって変わってるよね」

『あんたに言われたかないわ』

「僕が変わってる?」

『ゲームのこと言っていいって言ってるのに言わないし、それを利用する気もないんでしょ?』

「うん。でも、利用はしてる…のかも」

『?…委員長にさせるために?』

「じゃなくて、」


君と話せる機会を増やすために。


藤臣の整った唇から出た言葉。
私は瞬きを数回繰り返した。


『藤臣…あんた、私が好きなの?』

「うーん、それは少し違うかな。…ていうかハッキリ聞くんだね」

『だって私は好きじゃないから』

「ひどいな…」


困ったような笑顔。

嘘つくな!こいつ絶対ひどいなんて思ってない!
顔見ればわかんのよ顔見れば!


『何?もしかしてあんた好きな人でもいるの?』

「…うん、いるよ」

『へぇそう……って いるの!?』

「うん」


いつの間にか、話があらぬ方へ向かっていた。
しかしこれは好都合だ。藤臣の秘密を聞ける。


『誰よ、あんたの好きな人って』

「誰にも言わない?」

『約束は出来ないわね』

「…正直だね」

『嘘はつかない主義なの』


藤臣は名簿を書き終えたらしく、ボールペンを置いた。
真っ直ぐ私を見る。
夕日でオレンジに色づいた教室がなんだか眩しい。

しばらくして、藤臣が口を開いた。


「俺、姉さんが好きなんだ」

『…シスコン?』


藤臣は首を振った。





「本気で好きなんだよ」





キーンコーン カーンコーン──…


下校時刻のチャイム。
その音がこんなにも大きく頭に響いたのは初めてだった。



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