翼を失くした天使の羽音
「それより……今何時!?」

慌てて彩人くんが立ち上がった。


「何時だろ……ちょっと待って」

わたしは、ポケットに入れていた腕時計を見る。


え!!


「嘘っ!! もうこんな時間!?」



教室を出てから1時間を過ぎようとしていた。



「そろそろ……戻らなきゃね」



校内を見て回る約束、もう無理だね。



そう思って、彩人くんに視線を向けると、


「俺さ、二度と約束を破りたくないから……あの約束、来年まで保留にしてもいい?」


彩人くんは、少しだけ考え込んで、申し訳なさそうに言ったんだ。



約束を破りたくない。
サラさんへの償いの想い――…



落ち込む彩人くんに向かって、わたしは思いっきり大きくうなずいた。




「戻ろうか」

「そうだね」


わたしたちは、自然と手をつなぎながら、教室まで走る事なく歩いた。



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