わがまま娘の葛藤。


でも…―――

「礼は本当にもう蘭さんのこと、すきじゃないのかなぁ」

大地くんの言うことが本当なら、どうしてあんなに様子がおかしかったんだろう。
あたしに誤魔化したりしたんだろう。


「それは、礼に直接聞きな。でもちーちゃんが思ってる以上にあいつはちーちゃんを想ってるよ」

そこまで言うと立ち上がり、そろそろ帰ろ、とあたしを促す。
礼に会いたいような、会いたくないような、複雑な気持ち。


大地くんに連れられて、やっと見たことのある景色にホッと胸を撫で下ろす。

ここまでわずか、10分足らず。
あたしが一時間かかったものを、どうして。(大地くん曰く、“逆にどうやったら一時間かかんの?”らしい。ごもっとも)

そして、向かう先はあたしの部屋…
――ではなく、他でもない、礼の部屋。

やだやだやだやだ。
なにこれ、いじめ?

どうせ後々には怒られるんだって分かっているのに、それでも逃れたいと思うのは、乙女の、いや人間の必然の心理。


大地くんの後ろに隠れるようにして、部屋の中へと入る。
そこには、心配そうな顔をした栞と、誰がみても“不機嫌”と見てとれる礼がいた。

「ちさ~!もう、どこ行ってたの?!超心配したよ!」

「ごめんごめん。ちょっと…迷っちゃって」

視線も声も、栞のほうに向けているのに。
あたしの全神経は、2メートル隣の男に集中していた。
あたしに声もかけず、目を向けようともしない、不機嫌オーラ全開の男に。


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