ハッピー・クルージング~海でみつけた、愛のかけら~

結局、その日は全く仕事にならなかった。

船酔いがこんなにきついものだったなんて、想像もしたことがなかった私。


まどかに部屋まで送ってもらったけれど、ほとんど部屋にはいられなかった。

まさにトイレの住人となって、とにかく一晩耐えた。

もう、胃袋には何も残っていない。

ようやく吐き気が治まった……というより、吐くものがなくなって従業員トイレを出てから、外の空気を吸おうとデッキへ向かった。


従業員スペースは、Aデッキの前方にある。

鉄製の重たいドアをそっと開けると、潮の匂いがした。

自分の身体が通る程度にドアを開いて、深緑色の甲板へ足を降ろす。

まだひんやりと冷たい潮風が、私の髪の毛をくしゃくしゃに撫でた。


何も遮るものがないと、水平線は本当に弧を描いているように見えるんだ、なんてぼんやり考えていた。

もし、お天気が良かったら、綺麗な朝日が見えたはず。

今朝は残念ながら今にも雨が降りそうな悪天候。

前途多難な私の航海にぴったりな天気なのかも知れない。

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