首輪に鎖~行動範囲外の恋~
「あの子の声帯を取って下さい。」

悲しげな表情を浮かべて、充は言う。

充。及川充、42歳。社長である。柔和な顔立ちをしており、しかし、口下手が災いし、あまり人と接することが出来ずにいる男である。再婚し、再婚相手の妻を3年前に亡くした。その妻は、充が幼稚園の頃から知っている。充は、恋心をずっと寄せていたが、想いを伝えられなかった。一度目の結婚は、充の忘れなれない人がいると聞いた前妻が不愉快と感じ、問い詰めれば、口論の毎日で、元々、親が決めた縁談相手だったから、離縁を選んだとしても仕方がない、と思っていた。そして、失敗した。再婚相手とは、離婚後に再会する。再婚相手の妻には、18歳になる娘が居た。弥依(やえ)という。

「よろしいのですか?何も話せなくなりますよ。」

医者は表情を崩さず、冷静さを失うことをせず、伺う。

「…。苦しいんです。あの子、弥依を見てると、彼女を思い出すんです。」

充は更に悲しい表情を浮かべる。

「もう一度聞きます。本当によろしいのですね?」

「…はい。お願いします。」

「分かりました。手術代ですが、健康な声帯を取るのですから、高いです。1億円掛かります。お支払いですが、現金でお願いいたします。前払いです。それが条件です。」

「明日、お持ちします。」

「お待ちしております。」

依頼者、充は、診察室を出た。


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