花嫁と咎人
彼の言葉に、ピクリと体が反応してしまって。
再びあの時の嘲笑が呼び起こされる。
「先程の姫様の話ですが…やはりどう考えてもラザレスのいい様にしか動いていないような気がします。」
口に手を添えるエルバート。
その視線は、斜め下へ。
「病の件はラザレスが姫様の介入を拒む事で何かをしようとしている。また、婚礼の件でも…話通りに進めば結局はラザレスの思う壺だ。」
エルバートの言っている事。
複雑な権力の世界。
ラザレスはその力を手にすることで、一体何を企てているのだろう。
きっと凄く悪い事に違いない。
……寒気がする…。
それと同時に、嫌な予感が脳裏をよぎって。
「まさか、この国を乗っ取るつもりじゃ…」
息を飲み呟くと、エルバートは唇に手を添え視線を数度泳がせた。
「あり得なくも無いです。寧ろそう考えた方が妥当かと…。」
…シュヴァンネンベルク公ラザレス。
嗚呼、彼を止める手立ては無いのか。
「もし宜しければ明日、国王補佐のサミュエル様に相談に行かれませんか?」
「……サミュエル…?」
「ええ。あの方なら先代の国王様からの信頼も厚かったようですし、きっと何か知っていると思います。…姫様もあのお方の事をよくご存知なのでは。」
―…サミュエル。
彼なら何か良い助言をくれるかもしれないわ。
それに、久々に尋ねてみるのも悪くない。
「…そうね、会いに行きましょう。
……サミュエルに。」
私は、彼の提案にゆっくりと頷いた。