花嫁と咎人

彼女は涙を流し、酷く裏返った声を発しながらオズを見た。

「…息、が…!」

「…!」

慌てて酒の封を切り、コルク栓を弾き飛ばした。
そしてゆっくりとハイネの口にそれを注ぐが…

ジィンはそんな事無意味だと言わんばかりに何度も首を振る。

勿論ハイネはピクリとも動かない。


…嘘、だ。


「そ…んな、」


間に合わなかった…?
いやそんな訳がない。


「ハインツ…?」


死ぬだなんて…あり得ないだろ。
どんな苦労も逆境にも真っ向から立ち向かって、いつも何食わぬ顔で帰ってきたこいつが…死ぬわけない。


「……ぅ、…」


良く分からない感情がこみ上げてくる。

怒り?悲しみ?絶望…恐怖?

どれも似たようで違った。
冷たくなるハイネの手、白い肌はもっと蒼白になって…
血の色だけが紅く映える。



死。


漠然とそれを感じた時、オズは叫んだ。
大粒の涙が零れて…止まらない。

心が割れたように痛かった。
きっと一生埋まらない傷になる。

彼が居た記憶を、どうやって背負って生きていけばいいのだろう。

分からなかった。
故に、元凶が憎くて仕方なくなった。


「……て、やる…」

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