花嫁と咎人

…ハイネの、昔…。

その単語が妙に気になってしまう私だけれど…

いいえ、駄目。
待たなければ。

私は邪念を振り払うように、頭を振る。

すると、ハイネが口を開いた。


「嫌な夢だ…。出来れば昔の事は思い出したくなかったのに。」


髪をかき上げ、自嘲するかのように笑うハイネ。
私はどうして良いか分からずに、ただそんな彼を見つめるばかりで。


しかし、転機は唐突に訪れた。


「なぁ…フラン。俺の事を知りたいか。」


突然、そう切り出したハイネ。


「…え、?」


私は不謹慎にも、胸が高鳴るのを感じた。

でも反対に…とても悩んだ。


「……え、っと、」


頼りない言葉ばかりが漏れる。
だけど…少しでもハイネの支えになりたい。

あなたの事をもっとよく知りたい…―。


「私…知りたい。あなたの事。」


結果、私の口からはその言葉が溢れ出た。
そう言えば優しい眼差しで私を見つめ、何も言わず微笑む彼。


「…長いぞ。」


そしてハイネは話し始めた。


「この国から海を越えて北にある大陸。その大部分を占めている国、フィレンツィリア王国でのとある家族の話。」


フィレンツィリア王国にある、とある名家。
そこには巷でも美しいと評判の一人娘がいた。
彼女は弁が立ち、賢かったが…
哀しきかな、名家の当主でありながらも男ではなかったが故に、婿を貰う事となった。
しかし規律の厳しかった彼女の家では勿論政略結婚。

婿との間に愛など微塵も無かった。

また、彼女の名家ではある大きな掟があった。



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