花嫁と咎人
するとその時。
外がガヤガヤとざわつき始めた。
次第に人が集まり…
あっという間にジャックの家の前の通路は、人で埋め尽くされてしまって。
「ん、どうやら来たみてぇだな。」
中身が空になったコーヒーカップを置いて、ジャックは立ち上がる。
「…何が?」
オズが不思議そうに首を傾げると、彼は「あれだよ、あれ。」と言いながら玄関の方に足を進めた。
それからドアノブに手をかけ、
「“悪魔の子”が“例の水”を持ってきたんだよ。」
そう言うなり外へ出て行ってしまう。
…“悪魔の子”と“例の水”。
私達もすぐさま彼の後を追った。
まず、目に飛び込んできたのは、荷車から三つの甕を降ろす赤毛の姉弟。
「あーもー!危ないっぺー!」
我先にと水を求め、押し寄せる群衆に…姉の方は激しい鉛のある言葉で叫びまくる。
「…すっげ。」
その光景に唖然とするオズと、無言のハイネ。
私は人だかりの後ろで、ただ胸の前で手を組み立ちすくんでいた。
…“悪魔の子”、赤毛の姉弟。
そんな子達が目の前にいるのに…何故だか全く恐怖も沸いてこない。
寧ろ明るくて、元気そうな二人。
それに―…
「皆、あの水だけしか目に入ってねぇみたいだ。」
ハイネのその言葉通り、誰も曰くつきの彼等を気にすらしていなかった。
私は小さく頷きその光景を見ていると…
無防備な視界の隅に、何かが横切った。