花嫁と咎人
「姫様、こちらです!」
燃え盛る炎の中、必死に逃げていた。
運悪く別塔に居た私達は、逃げ惑う使用人立達に紛れて必死に出口を探す。
別塔は老朽化が進み、古くからある建物のせいで出口が少ない。
だが幸いにも、エルバートが出口の場所を幾つか知っていたお陰で脱出する事が出来そうだ。
私はエルバートに連れられ、地下へと続く階段を降りていく。
「寒いわ…。」
燃えている地上が嘘のように、地下は真冬のように冷たく…
何処か怪しげな雰囲気が漂う。
震える私を優しく抱き寄せ、エルバートは黙々と足を進める。
「最下層に着けば、少し距離はありますが…城壁辺りに出られる通路があるはずです。それまでしばしのご辛抱を。」
無言で頷き、足を進めた。
別塔で火が出るなんて…。
未だに信じられない。
嗚呼、サミュエルは無事かしら…。
他の貴族の人たちも…。
考えるほどに心配になり、不安になる。
だけど、まず今は自分達が生き延びることを考えなくては元も子もない…。
そう自分に言い聞かせて階段を降りること数分。
ようやく最下層に着く。
だが最下層につくなりエルバートは突如足を止めると、腰に下げてあった剣を勢いよく引き抜いた。
「エルバート…?」
彼の背中に顔を埋めるように足を止めた私は、驚いて顔を上げるが…
エルバートは物凄く怖い表情をして歯を食いしばり、目前を睨み続けている。
どうしたものかと彼の背中から顔を覗かせ、剣の刃先が向いている先に視線を移した。
刹那、私は戦慄する。
「…、!」
見覚えのある佇まい、金色の瞳、不敵な笑み。
そうそこには、決して居るはずの無いシュヴァンネンベルク公ラザレスの姿があったのだ。