花嫁と咎人

「―…うわ…、」


声を上げてオズは上を向き、私は思わず顔を逸らした。

勿論、遺体は昨日の物ではない。

腐敗が進んで…、見るに耐えない姿だったが、


「――…。」


ハイネは一人その脇にしゃがみ込んで…棺の中から何かを取り出した。

そして小さく一言。


「…お帰り、母さん。」


静かで…とても透き通った声だった。

どうやら取り出したのは、彼女が身に着けていた装飾品の幾つかのようで。

それらをオズに渡すと…彼は小さく息を吐いた。

そしてそれと同時に右手で顔を覆い…



―小さく混じる嗚咽。



息を吐いては…透明な雫が亡き母の体の上に零れ落ちて。


「もっと早く、この国に来れば、良かった、」


初めてハイネが泣いている姿を見た。
でも、それ以上に胸が痛んで。

彼の言葉の一つ一つが、心に突き刺さる。

でも…ハイネはそれでも悲しみを我慢しているようだった。
きっともっと泣きたいはずなのに、まだ泣けない理由でもあるかのように。


暫くして、ハイネは立ち上がると…
涙を拭って…蓋を閉じる。

そして以前と同じように土と墓石を戻し、


「…戻ろう。」


教会の中へ。



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