花嫁と咎人

「…あなた、この国の人ではないみたいね…。どこの国の人?」


距離を置きつつも思わず問いかけると、彼は青い瞳をぎょろっと私の方に向け、鼻で笑った。


「誰が言うかよバァカ。とっとと向こうに行きやがれ!」


…プチン。

唐突に、何かが切れる音がした。
馬鹿?馬鹿ですって…?

初めてそんな事を言われたわ…!


「わ…私が馬鹿ですって…!
この!下品な!口!
私は、私はこの国の女王なのよ!
その口の利き方は許せないわ!」


するとそれを聞いた彼は暫く私を見たまま硬直していたが、何が可笑しいのか、しまいに腹を抱えて笑い出した。


「アンタが?女王!?
ハッ!こんなちんちくりんな女王様がこの国を統べてるだなんて、世も末だな!国民もがっかりだ!
つーかそれ以前に、なんでそんな高貴で麗しい女王陛下がこんな罪人の巣屈にいらっしゃるんだよ!
それこそ可笑しいだろ!」


「…なんですって?!
だったらあなたもどうしてこんな所にいるのかしら?あなたこそ何かしでかしたのでしょう!この大罪人!
私の事もろくに知らないくせして好き勝手言わないで頂戴!」


怒りのあまり、言い放つ。
すると突然彼は一層不機嫌そうな顔になり、恐ろしい表情を浮かべたまま私の腕を掴んできた。


「誰が大罪人だってこの野郎…!」


彼の手足に付いている枷が不気味な音を立て、少しだけ慄く。
だが、彼は私を強く睨みつけたまま、掴んだ手を強引に引き寄せた。


「俺はただ、世界中を船で回っていただけなんだよ…!
それなのに、悪天候で座礁した船と乗客を救助するどころか逆に俺は密入国者として連行されて!
挙句の果てに死刑だってよ!
俺は明日明後日にはもう断頭台にかけられる。
確かアンタ…この国を統べる女王陛下だったよな…?」


彼は憎しみと怒りのこもった表情を剥き出して、私の顔を舐め回すように見ると、
一層低い声で吐き捨てる。


「なら、これもアンタが仕向けたのか?勝手に鎖国だかなんだかにしておいて、罪の無い人まで首斬って殺すのかよ…!
信じられねぇ。…それが、人のする事か…!」


その言葉に、チクリと胸が痛んだ。
私の知らない所でそんな事が…。

嗚呼、エルバート…こんな時どうすればいいの?
私は何と言えばいいの?
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