花嫁と咎人
◇ ◆ ◇
フィレンツィリア領エスタンシア。
旧エステリア城・王の間。
「―…どうやら“緋色の死神”は土葬が主因で、腐敗した遺体から発生した新種の細菌による、伝染病だったようだ。」
大量の書類をオーウェンに渡しながら、ルエラは言った。
「とは言え、ラザレスはその事実を知りながらも黙認していたみたいだが。」
目の前に立つのはたった一人生き残った一族の末裔。
しかも、彼の一族は度重なる陰謀を企て、国を震撼させる程の悪事を働いてきた。
勿論。
彼にとってそれは最も嫌な事実であり、逃れられぬ醜き過去。
例え彼自身に罪は無くとも、世間がその名を許すまでには長い時がかかるだろう。
だが、気の毒だとは思いつつもルエラは真実を告げなければならない。
何を隠そう。
…それを彼自身が望んでいるから。
「それと、鎖国の件も元を辿ってみたら、やはり君の一族が原因だった。…陰謀も、これが初めてではなかったようだ。」
「…そう、ですか。」
思った通り、オーウェンは次々と明らかになる事実を聞くなりうな垂れた。
でもその震える手をぎゅっと握り締め、
「ありがとうございます。」
と呟けば、まだぎこちないものの…彼は悲しみの混じった笑みを返してくる。
「………。」
ルエラはそんな彼の姿を暫く見つめた後、小さくため息を吐きながら立ち上がり…
ポンポンとオーウェンの肩を叩いた。