花嫁と咎人

「…もっとも、アンタがどういう扱いをされるかはまだわかんねぇけどな…。
俺の予想だと俺がアンタを誘拐したって事になるか、もしくはアンタが女王だという事すら明かさず、脱獄者2名って事になるか……五分五分だな。」


ハイネは顎に手を沿えそういった。
勿論疑問を感じた私は、


「で、でも、前者は酷いわ!ハイネは私を誘拐なんかしていないもの。」


と彼に言うが、ハイネは私を見て吹き出す。


「アンタさ、純粋すぎて困るって言われた事ねぇか?」


「…え?」


そう言えば…あのラザレスにも言われた事があるような…。

するとハイネは急に真剣な表情になって私を見た。


「いいかフラン。真実は真実。嘘は嘘。そう割り切ることは良い事だ。
だけどな…時に真実は嘘に変わり、嘘は真実に変わる。信じることだけが善じゃない。
時には疑うことも必要だ。」


「…疑う、事…?」


「いくら違うといっても、それを真実に出来る奴がこの国にはいる。
俺達が何をしたって敵う相手じゃない。…アンタもそれは十分分かってることだろ。」


そう言ってハイネは暫く口を閉ざした。
そして吹き抜ける風が止んだ時。


「気をつけろ。アンタの長所は時に命取りになる。」


彼は言った。
私の目を見据え、言った。

これはきっと、私に対する忠告。

かつてエルバートが私に言ったように…。


「皮肉なもんだな、人間ってのは。生まれた時は皆同じなのに…いつからか変わっていく。」


そう言うハイネの横顔が、少しだけ別人のように見えた。
海の色と同じダークブルーの瞳。

その瞳は海のもっと向こうを目指しているようだった。


< 52 / 530 >

この作品をシェア

pagetop