花嫁と咎人

   ◇ ◆ ◇


「…アルベルタ…?」


私は扉に耳を寄せ、小さく呟いた。
どうやら外ではタリアとハイネが話しているようで。

どうにも眠れないのを言い訳に、私はひっそり盗み聞きをしてしまっていた。

でも、今ベッドから扉の前に来たものだから…その前の話は全く聞いていない。


只唯一聞こえたのは、
そう…“アルベルタ”という名前と、ハイネが息を呑む音だけ。


私は扉から耳を離すと、もう一度その名を呟いてみる。


…思えば、私はハイネの事を何も知らない。
唯一私が知っていることと言えば、ハイネが旅人であるという事と、死刑囚とされてしまった経緯のみ。


未知なる人。
だから少しでも知りたいと思うけれど、突然多くを聞くわけにもいかない。


「駄目よ、フランシーヌ。ハイネが自分から話してくれるのを待つの。」


そう言い聞かせ、盗み聞きはいけない事だと自分自身を叱咤し、私は細々とベッドに戻り目を閉じる。


それにしても“アルベルタ”って…一体誰なのかしら。


ほんの些細な、しかしとても大きな疑問を抱いたまま私は夢の中に落ちていった。


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