花嫁と咎人
すると彼は、
「もー。君だよ君。」
そう言って私の隣に腰掛ける。
私はビクッと肩を震わせた。
…どうしよう、知らない人だわ。
必死にハイネを探すけれど、彼の姿はどこにも無い。
しかし隣の男はとても強引で。
見た所、私とそんなに変わらない年のように見える。
そんな彼は私に詰め寄ると…
とても困った顔をして、私にこう言った。
「あのさ…ちょっと向こうでオレの友達が怪我しちゃったみたいで。良かったら医者の所に運ぶの手伝ってくれない?」
……怪我?
「お、お友達が、ですか?」
それを聞いた私は思わず口を開いてしまう。
―あっ、
その直後、ハイネの言付けを思い出して私は慌てて口を塞ぐけれど、もう遅い。
彼は「そうなんだよ、ね、だからさぁ」とせがんでくる。
…でも、もし本当にお友達が怪我をしてるなら、早く手当てをしないと大変だわ。
そう思った私は、罪悪感を抱きながらも首を縦に振ってしまった。
「でも、待ち合わせをしてる人がいるので…早めにお願いしますね。」
承諾すれば勿論、彼の顔は一段と晴れやかになって。
「え、マジで!すっげー嬉しい!んじゃ、こっちこっち!」
早々と言うなり、彼は私の手を引き…人気の無い路地に連れ込んだ。
殺風景で、沢山のパイプが顔を出し…地を走るネズミ達。
泥臭いその路地を見渡しても、彼の友達らしき怪我人はどこにもいなくて。
「…あの、本当にここで合っているのでしょうか…」
私がくるくると辺りを見渡していると、その時。