犯人と被害者〜2日間のLove Story〜
夜。倉庫にある小さな窓から、綺麗な月が見える。

「遥さーん」
「あ?」
「あの…」
ぐぅぅ〜〜…
千夏が言い終わるより先に、彼女の腹が鳴った。
「あ……」
盛大な音は、遥の耳にも当然届いた。
ナイスタイミング。まるで千夏の代わりに、腹の虫が先に説明をしてくれたかのようだ。
これにはさすがの千夏も、恥じらいを見せた。
「と、いうわけなんですけど…」
頬を赤く染め、苦笑する千夏。
「腹減ってんのか」
「はは…。すいません…」

ポケットを探り、遥は板チョコを一枚渡した。
「今はこれしかない」
「わーい!!チョコ──!!」
甘いものが好きなのか、千夏は子供のようにあどけない笑顔を見せる。
幸せそうな千夏を見ていると、遥の頬は緩んだ。

遥は鎖をはずす。
そのとたん、千夏は飛び跳ねて喜んだ。
チョコひとつでこんなにも喜ぶ奴が高校生がいるのか…。
恐らく、千夏だけだろう。

「ほら、さっさと食え」
「その前に…」
パキッとチョコを半分に割ると、千夏は半分のチョコを遥に差し出した。
「?」
「遥さんの分です。仲良く、はんぶんこしましょ♪」
確かに腹は減っているが、そんなハッピーな笑顔をしている少女から、幸せを半分奪うようなことはしたくない。
といっても、拉致した相手と一緒にいる時点で彼女は幸せではないのだろうが──。

「俺はいいから、食べな」
「でも…」
ポンポンと頭を撫でる。
「本当は全部食べたいんだろ?だったら、素直に食え」
「……いいんですか?」
「ああ」
「じゃあ、お言葉に甘えて!」
遥が頷いたのを確認すると、千夏はチョコにかぶりついた。

「うん、やっぱチョコはうまいですね!!」
おいしそうにほおばっていた千夏は、視線を感じ顔を上げる。

……あ…。

遥は優しい笑みを浮かべ、こちらを見ていた。
千夏を拉致した犯人とは思えないほど優しく、綺麗な笑顔。
千夏は思わず、遥の笑顔に目を奪われる。
なんだか照れてしまい、再びチョコを食べ始めた。

「初めて…笑ってくれましたね」
「え?」
「…何でもないですっ!」
千夏は嬉しそうに笑った。
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