蜜蜂
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「いたっ…」


彼女の小さな悲鳴。


「杏花?!」


人差し指を押さえる彼女の左手を退かす。
指には一筋、血の滲む傷跡。どうやら資料集で切ったらしい。


「大丈夫?」


運よく資料室にあったティッシュで傷口を押さえる。
よく見ると、指先にはたくさんの切り傷があった。
どうしたのか聞こうと思い彼女の顔を見ると、顔を赤くして固まっている。


「杏花」


名前を呼びながら、顔にかかっていた蜂蜜色の髪を指でどけた。



「触らないでっ!」



固まっていた彼女が最初に見せた反応は、拒絶だった。



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