蜜蜂
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そのままの体勢で、どれだけの時間が経ったのだろう。
たった一分かもしれない。
でも、俺にはとても長く感じられて。



「…千明、……離して」



静寂を破ったのは、彼女の一言だった。
俺は言うとおりに扉から手をどけ、彼女がドアノブを回し、扉を開けるのを無言で見ていた。

その光景は、とてもスローモーションに見えて。

バタンという扉の閉まる音だけを残して、彼女は向こうに消えてしまった。
それと同時に、俺はその場に座り込んだ。







どうして。
大切なものは指をすり抜けて行ってしまうんだろう。

何も掴めない自分の手を握りしめて、ただうつ向くことしかできなかった。






To be continue...



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