あの日を追って…


ある程度走った後
少女は息を切らしながら
振り向いた。

「また会いましたね」

少女は嬉しそうに微笑んだ。

「初めて貴方を見たとき、初めて会った人に思えなくて…」

少年は口を開いた。

「君は…?」

少女は一息ついてから

「シャルアム=ユノ=キャルベリーノ って言うの。親しい友人はみんなシャルって呼ぶわ。」
「貴方は?」

少年は一度黙り込んだが
少女、つまりシャルアムがあまりにも返答を楽しみにしているようだったため
口を開いた。

「分からないんだ…」

シャルアムは一瞬曇った表情を見せたがすぐに返答した。

「じゃぁ何て呼べばいいかわからないじゃない」

少年は黙り込んだ。
シャルアムは少年を見て
ゆっくり話した。

「じゃぁ私が付けるわ。」

少年はキョトンとしたが
シャルアムは続ける。


「貴方は今日からアラン」

シャルアムは得意げに
少年の顔をのぞいた。


「私の兄に貴方は似てるわ。兄はもぅいないけどね。」

シャルアムは淋しそうに笑うと少年に問い掛けた。


「貴方には兄とかいるの?」

少年はまた

「分からない」

と答えた。


するとシャルアムは
また得意げに笑った。

「じゃぁ決定ね」

少年は首を傾げた。

「貴方の名前よ」

シャルアムは少年を見て


「アラン=ユノ=キャルベリーノ」

シャルアムは笑うと

「貴方は今日から私の家族よ」

少年は驚いて言った。

「何故…?」

シャルアムは一歩進むと振り返って答えた。

「いくとこ無いんでしょ?ちょうど従者が不足していたの。良かったらどうかしら」

少年は何故か涙が溢れた。
悲しくないのに
痛くないのに…

「もちろん、拒否権はありませんわ。」

シャルアムはそう言って再び少年の手を引いた。


少年は今この時から
無名な少年から
アラン=ユノ=キャルベリーノになったのだった。


ふわっと香る風は2人を
包んで静かに消えていった。


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