迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*

消えない記憶





――夢をみた。



それは、

ずっとずっと昔の記憶。






―――…………

――……



「…なんで?」



幼い俺が無邪気に問う。



「なんでダメなの?」



キッチンに立つ母さん。

夕飯の支度だったか。
その後片付けだったか…

そのへんは定かではないけれど、俺はその背中に向かって懸命に訴えていた。



「ユーキくんも、リョウくんも…みんな始めたって言うんだよ?」



近所の友達の名前を挙げて。



「今くらいに入るのがちょうどいいんだって。」



みんなに聞いたことを、もっともらしく話す。



「だから、僕も「…航、」



言いかけた俺を遮って、
手を止めた母さんがゆっくりと振り返った。



「この前、ちゃんとお話したでしょ?」



子供を諭す、そんな声色だったけど、

その瞳は、怒ると言うよりも哀しげな光を放っていた。



「残念だけど…航は、できないのよ。」



< 59 / 334 >

この作品をシェア

pagetop