迷子の眠り姫〜sweet kiss〜*下*

迫り来る闇





「…大丈夫、だってば。」



荷物をまとめる華奢な背中に呼び掛ける。



「別にそんなに気にすることじゃないって」



俺の言葉に、ぴたりと動きを止めて。

彼女はゆっくりと振り返った。


……うわぁ。やっぱり怒ってる。



「………。」



無言のまま、俺を睨む大きな瞳。

眉を寄せて。
唇をぎゅっと噛み締めて。

かなりご立腹の様子なんだけど…ダメだ。

“可愛い”のほうが勝っちゃうから、不謹慎にも、頬が勝手に弛んでしまう。


だってさ、

いつもすましてるくせに、こういうときだけは、子供みたいに素直に顔に出るんだもん。


たぶん、他のやつには見せない表情だと思う。


……と。にやけてる場合じゃなかった。



「はっきりそうと決まったわけじゃないんだし、思い過ごしかも…「“そう”だよ。」



俺の言葉を遮って、彼女はキッと俺を睨んだ。



「絶対、知ってるよ。
だって…先輩、私の顔見て気まずそうに目をそらしたもん。」



< 97 / 334 >

この作品をシェア

pagetop