ー時効ー



玄関を出て黒のヒールを履く

慌てて鍵を閉めようと

コートのポケットに
手をいれたが、鍵らしき感触がない。


出てくるのはレシートやガムの銀紙


あぁーーっもう……!

早くしなければ遅刻してしまう



苛々する


鍵がないことに。

相変わらずな自分に。


ズキン、ズキン…

こめかみ辺りの頭痛がいっそう苛々を積もらせる


もうこうなったらいつも通りのパターンで


奈美はしゃがみ込んで
バックを逆さにし、中身を全て玄関前に撒き散らす


鍵がチリン…と鈴の音を鳴らして靴の先に転がった。


急いで拾いあげ、鍵を閉めると


バックの中身をとりあえず詰め込んで駅へと駆け出した

こんなとき1階に住んでいてよかったと思う


ヒールが鳴らす音と頭痛の痛みと共に小走りに走りながら


優子の言葉が頭の中に響く


奈美ちゃん

奈美ちゃんは社会的に偉くなったかもしれない

でもあたしの中で奈美ちゃんは、いつまでも四つ上の奈美ちゃんだよ。


急に時を感じた。

そっか、私は28になったんだ…

優子、そんなに経つんだね

胸がなんで苦しいのか分からない 走ったせいだと思いたい

奈美は走る速度をあげた。
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