Happy birthday
 
「ねぇ、キミはチューリップの花言葉知ってる?」

「知らねえ」

 男盛りの男子高校生が、女々しい花言葉なんかに興味あるわけないだろうが。

「そっ、ならいいや。あっ、ひとつ言っとくけど、新しいキミのお隣さんはわたしだから。よろしくね~」

 マジかよ。

「しかも、最前列中央の特等席だよ~。よかったね!」

 よいはずがない。

 何の陰謀だよ、これは。

「終わった……。俺の人生」

「さあ、ボーっとしてないで行くよ!」

 岸田は俺の手を強引に掴み取り、俺を階段方面へと引っ張っていく。

「委員長、早退したら駄目ですか」

「駄目です。午後の授業はちゃんと受けてくださいね~。わたしが監視するから」

 悲しい事に、俺は保護観察付きの学校生活を余儀なくされたようだった。

 力強く俺の手を握ったまま、岸田は階段を降りていく。

 その黒い髪が鮮やかに揺れていた。

「さっきの家本の話は、嘘だからね」

「わかってるよ、そんなこと」

 依然、手を熱く握ったままで状態で、俺は2Bの教室へと引っ張られてゆく。

 昼休みの賑やかな廊下を、周囲の人間の奇異の目を受けながら歩く俺たちだった。 

 この羞恥プレイ丸出しの状況を恥ずかしくないのか、岸田は堂々と歩いて行く。

 俺はとてつもなく、恥ずかしい。

 だから岸田も仲間にしてやろうかと思った。

「なあ、委員長様は水玉模様が好きなの?」

 さっき見た魅惑のトライアングルゾーンの話を振ってやった。

「なっ……」

 こちらに振り返り、恥じらいの表情を見せる岸田に、同士誕生!と喜んだのも束の間、俺は次の瞬間、宙を舞うのであった。

 こいつなら、キックボクサーのチャンピオンになれると俺は思った。






 それは、馬鹿馬鹿しくて、思い出すのも恥ずかしい青春の日々の始まりだった。
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