愛してるさえ、下手だった


人を殺すことにためらいなんてなかった。

遅かれ早かれいずれは死ぬのだから、どうってことないと思っていた。

満希は自分を殺してもいいと言っている。
そう言ってくる奴ほど殺しやすい奴はいないのに。

大きく波立つ気持ちが、俺の手に歯止めをかけた。

どうせあと一カ月なんだ。
満希といられるのも、一カ月だけなんだ。

そうやって割り切ろうとするのに、余計につらくなる。

殺す相手に情を抱いてはいけない。
それが俺たちが依頼をこなす上での最低条件だった。
相手に何かしらの気持ちを持ってしまえば、息の根を止めることが難しくなってしまうから。

人としてではなくモノとして、相手を見ていたつもりだった。

今までは。


じゃあ、これからは――?




< 36 / 79 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop