愛してるさえ、下手だった


旭があたしを抱きしめていた手を離して、その両手のひらをじっと見つめる。
その細い指には、誰のものかわからない血液が付着していた。

「…殺したんだ」

虚ろな目は、両手から視線を外さない。

「殺したんだ…」

まるで病にでも侵されたかのように、ずっと同じ言葉を呟いている。
今までに見たことのない旭の姿に、戸惑いが隠せなかった。

まるでひびの入ったガラスのようだった。
あと少し衝撃が加われば、彼はきっと壊れてしまう。

壊れてしまえば、もう取り返しがつかなくなる。


「旭」

細心の注意を払って彼の名前を呼ぶと、彼は視線を上げた。
光のかけらも踏み入ることができないような、哀しい目。

「満希…。俺は、俺は」

その口が、次に信じられない言葉を生みだす。




「殺したんだ。
お前の、彼氏を」



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