恋の教習所

~一ノ瀬三咲の場合~


私は思った。

山本教官も思った。


キィーーーッ!!


笠井君も思ったからブレーキを踏んだんだ。


検定が終わって、その検定車から降りてきた教習生。
終わってホッとしたのか、校舎へ戻ろうとコースを横切ってきたのだ。


教習生は私たちの車を見て、頭を下げた。
検定員の教官もこっちを見て、ごめんって手を挙げた。


歩行者、だもんね。


こうやって急な飛び出しにも気をつけながら運転していかないといけない。


正直・・・今までの私なら見つける時間が遅かったかもしれない。

“飛び出してくるかもしれない”


改めて、危険予測の大切さに気づいた。





「今のも危険予測の一つだね。場内でも油断は出来ないよ。特に検定が多い日、高齢者講習をしている日には歩行者が増えるから。」

発着点に戻った車の中で山本教官がそう言った。


確かに今のを見たら、いくら場内だからって油断は禁物。


気をつけよう。


「それにしても、笠井君よくあの子が渡るかもしれないって予測出来たね?」



私もそう思った。

あ、検定車が帰ってきてるなぁくらいにしか思ってなかったのに。


「僕、教習生の時にさっきの子と同じ事をしてしまったんです。相手は教習中だったと思います。だからもしかしてと思って。」



・・・・・なるほど。


「なるほど。教習生が相手ならよりビックリしただろうね。」

「ですよね。かなり慌てたんじゃないかと思います。」


笠井君の返答に山本教官が

「でも、自分の経験を活かすっていうのも大切だから。笠井君がそんな体験をしていなかったら、今反応が遅れていたかもしれない。」

こう言った。






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