夜色オオカミ




人狼とは違うあたしには言われるまで全くわからなかったけど…



森の中の草や土の香りとは別に、



ほんのりと……甘い香りがした。



「この…香り…」



その香りを感じとると同時にあたしは妙なデジャウ゛を感じた。







「ごめん…姫君…、

…どうしたの?」



申し訳なさそうに尻尾を垂れた紅ちゃんの声に返事を返す余裕もなく、あたしは忙しなく辺りを見回す。



――――そして一人で草を掻き分け走り出した。



「姫君…!?」



蒼ちゃんが戸惑いの声をあげるけど、それどころではなかった。



あたしは一人どんどん進み、二人は焦った様子であたしを追いかける。



だって、







…わかる。









立ち並ぶ杉の木の間に浮かぶ金のお皿のような満月



鬱蒼と生い茂る草木



この甘い…近づくごとに濃密に香る









…花の匂い。









何かにとりつかれたように足を進め、最後の草を掻き分けると





「待って!姫君……――何…ここ……?」



「紅…!……若様だ……!!」









切り開かれた野原に、濃密に香る…咲き誇る白い百合の花畑――










心花が見せてくれた夢と同じ場所










目の前には、白い百合の花に囲まれて



対峙する二匹の狼の姿があった。









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