楽園の炎
静かに言う桂枝を、朱夏は涙に濡れた瞳でじっと見つめていたが、すぐにぶんぶんと首を振る。

「違う! そんなわけないよ。そんな悪いことしたなら、軽々しく言うわけないじゃない。そんな人じゃないよ! 良い人だもの・・・・・・」

「何故そう言い切れるのです? あの者が死罪になっても、朱夏様にはあまり、関係ないことですよ。確かに朱夏様を助けた者ですが、本人が罪を認めているのです。死罪になっても構わないという態度なら、朱夏様が気に病む必要は、ないのではないですか?」

冷酷とも取れる桂枝の言葉に、朱夏はなおもぶんぶんと首を振る。
ぽろぽろと、涙が膝に落ちる。

「嫌だ! そんなこと言わないでよ! あたしを助けてくれたからっていうんじゃないわ! そんなこと、どうだっていい。ただユウが、いなくなるのが嫌なの。あの人が殺されるなんて、耐えられない・・・・・・!」

桂枝は、自分にしがみついて訴える朱夏に、ふ、と目を細めた。
両手で朱夏の頬を包み、流れる涙を拭ってやると、優しく微笑む。

「その感情を、愛というのですよ」

桂枝に頬を包まれたまま、朱夏は目を見開いた。
固まっている朱夏の涙を拭きながら、桂枝は再度微笑むと、立ち上がって静かに部屋を出て行く。

ぼんやりと桂枝の出て行った扉を見つめていた朱夏は、ゆっくりと文机の上の首飾りに視線を移し、ぽつりと呟いた。

「・・・・・・愛・・・・・・」
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