楽園の炎
ぴくりと皇太子の片眉が上がる。
少し厳しい視線を向けられても、葵は臆さず言葉を続けた。

「立ち入ったことかもしれませんが、朱夏は私にとって、妹とも思う、大事な者です。想い合っていても、そのように死に急ぐ者に、大事な妹を渡すことは、兄として承服致しかねます」

きっぱりと言い切った葵に、朱夏は複雑な思いを抱く。

葵の言葉は、ただの嫉妬ではない。
嘘偽りのない、本心なのだ。
逆の立場だったら、朱夏もそう思っただろう。

あの夜のことがあっても、やはり葵は、朱夏にとって、大事な人には変わりない。
葵にとっても、そうなのだ。
真剣に自分を想ってくれる葵に、朱夏は少し、胸が痛んだ。

「・・・・・・確かに。お家騒動のこと故、あまり触れ回ることは、好ましくないのだが、そなたの言うことも、もっともだ。おそらく炎駒殿辺りは、聞き及んでおることだろうしな」

皇太子はそう言うと、椅子に深く身体を預けた。

「夕星は、第二皇子の母君、メイズ殿の死に、責任を感じておるのだ」

「第二皇子というと・・・・・・アリンダ様」

炎駒に頷き、皇太子は葡萄酒の入った杯を手に取った。
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